こちらは、グラフ旭川 平成27年7月号の医療コラム欄に掲載されたものです。
ヘルニアについて悩んでいる方がいましたら、ぜひご一読の上外来受診をしてください。
『鼠径ヘルニアについて』
一般的には「脱腸」と言う方が馴染み深いかもしれませんが、正式には「鼠径ヘルニア」と言います。足のつけ根のことを解剖の用語で「鼠径部」と言い、ある一定の場所から何かが飛び出ることを「ヘルニア」と言います。例えば、腰椎椎間板ヘルニアでは背骨の間の椎間板が飛び出して、神経を圧迫することによって足のしびれや痛み等がおこる病気です。鼠径ヘルニアでは、脱腸という通称の通り「小腸」が飛び出していることが多いです。
おなかの壁は外側から、①皮膚、②筋層、③腹膜と3層構造になっており、その中に胃や腸などの内臓が入っています。しかし、鼠径部では他の部位に比べて筋層が薄く弱くなりやすい特徴があるため、腹圧が高いと弱い部分の腹膜が風船状に膨らみ、腸が入るくらいの大きさになると、飛び出した腸をポコッと触れるようになるのです。
ではなぜ鼠径部の筋層が弱くなりやすいかというと、男性では睾丸から精子を運ぶための精管という管が、女性では子宮を支える子宮円索という靭帯が、鼠径部のところで腹壁を斜めに貫くトンネルのようになっているためです。トンネル部に長年にわたり高い腹圧が加わっていると、トンネルの穴が広がってしまったり、トンネルを裏打ちする壁が弱くなったりするのです。(実は鼠径部(・・・)という言葉は、産まれる前の胎児期におなかの中で造られた精巣が、まるでネズミがトンネルの中を進む様に腹腔内から陰嚢まで移動することに由来します)
よって、腹圧のかかりやすい人の方がヘルニアになりやすく、重たいものを持つ仕事の人、便秘でよくふんばる人、咳を頻繁にする人(喫煙者)、妊婦さんなどでリスクが高いと言われています。
私が手術させていただいた患者さんの中には、『60歳前後の男性で、そろそろ定年になるし健康のためにと思ってジムに通い腹筋運動などを始めたところ、2~3ヶ月して足のつけ根がポコッと膨らんで、キリキリと痛むので外科を受診しました』という、典型的なエピソードの方も何人もいらっしゃいました。
ヘルニアは、最初はゴルフボールくらいの大きさですが何年何十年も放っておくと、狸の信楽焼きの置物のように精巣の方に向かってだんだんと大きく膨らんでいきます。
症状は、腸が長い時間はまり込むことによりキリキリと痛むことがありますが、通常は横になったり、指で押すことによって元に戻り、痛みも消失します。しかし、何かの拍子にいつもより多くの小腸が脱出し、はまり込んで首が絞められるに戻らなくなることがあります。この状態を「嵌頓(かんとん)」と言います。(嵌は訓読みでハマると言う字です)こうなると腸の血管も締め付けられて血が行かなくなり、数時間も放っておくと腸がくさってしまい、腸を切除する緊急手術が必要になります。よって「嵌頓」が疑われるときは、緊急での受診が必要であり、なるべく早く受診していただければ腸を切らず戻すことが可能になります。
鼠径ヘルニアは、この「嵌頓」することが恐ろしいので、予防のために手術が必能な病気なのです。
割合としては、男性が70~80%と言われており、男性の方が多いために男性の例を中心としてご説明いたしましたが、女性の方が身体が小さいためにヘルニアの出口が狭く、嵌頓するリスクは高いと言われており、早めの手術が勧められます。
ちなみに、筋膜が脆弱化したために起こる病気であるため、手術で補強する以外には有効な治療法はありません。また、決して少ない病気ではなく年間15万人前後の方が手術を受けていると言われています。ヘルニアは子どもの病気と思われている方もいるかもしれませんが、子供の場合は先天的にトンネルが大きいことが原因であり、大人の場合にはトンネルが腹圧で広がったことが原因となります。
【ヘルニアの分類】
鼠径部のヘルニアは脱出してくる場所によってそれぞれ分類されており、①外鼠径ヘルニア、②内鼠径ヘルニア、③大腿ヘルニアと言います。③は術式によりますが、ごく近接する場所であるため、一度の手術で同じように補強することが可能です。
【手術】
以前は、薄くなった筋膜を剥がして、脱出した腸管を元に戻し、丈夫な筋膜を糸でグッと引きよせ、丈夫な腹壁を作り直すという手術が必要でしたが、突っ張って痛かったり、再発する確率がやや高いというデメリットがありました。(従来法)
しかし、現在ではプラスチック製のポリプロピレンという薄いシート(メッシュ)を補強材として弱くなってしまった筋膜の代わりとして固定する方法が主流となっております。
ヘルニアを修復しメッシュを挿入する方法として、鼠径部を直接切開する方法と、腹腔鏡を使用して、おなかの中から直接脱出部を確認しメッシュで塞ぐ方法があります。また、術式によって使用するメッシュにもいろいろな形状があり、型崩れしないように工夫されたシート状のもの、シートを2枚水平につなげ裏表からはさんで補強するもの、穴に詰め込むタイプのものなどがあります。
麻酔も、腹腔鏡を使用する術式では全身麻酔が必要で、日帰り手術を目的として局所のみの麻酔や、腰からの麻酔など病院によって様々です。
色々な術式がありますが、基本的には再発率・合併症などに大きな差はないと言われており、その執刀される先生の慣れ親しんだ術式にまかせていただけるが一番安心できると思われます。
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